今回は、演劇ならではの「繰り返すこと」についてお話します。 前回までの内容を踏まえると、 諦めないことが新鮮に相手と向き合うことにつながるとお話しましたが、 繰り返すことがここに加わることがどう作用するかお話します。 繰り返すということについて考える時、 いつもロミオとジュリエットと例出して考えます。 ロミオもジュリエットも結ばれようと全力で相手を求めます。 その諦めない姿勢が悲劇的な結末へと物語を進めていきます。 物語の中では初めて出会い、求め、結ばれようとするのですが、 舞台俳優はそれを数えきれないほど繰り返します(笑)。 例えば18回公演であれば18回ロミオはジュリエットと結ばれようと試みます。 稽古が1月あるとして乱暴に30回足せば、48回です。 48回も「初めて」を繰り返すのです。 あり得ないシチュエーションのようですが、 実は皆さんの多くも経験していることです。 たとえばベッド中で試験の夢を。 初恋の思い出を何度も思い出し。 あの時ああしていれば・・・。 あの時ああしたのになぜあの人は・・? 舞台俳優も同じことをします。 台詞は変えられません。 しかしどうすれば結ばれるのか工夫します。 48回結ばれようとトライするのです。 そうすると何が起こるか? コミュニケーションの純度が上がります。 そのシチュエーションで考えられるあらゆる選択肢を総動員して、 運命を変えようとします。 くどいようですが、台詞は変えずに。 そうして純度の上がった言葉は 同じように人生を繰り返すことが許されない観客の感性に突き刺さります。 後悔や懐かしさ、愛しさ、得も言われぬ幸福感など様々な感情が観客の中に蘇ります。 そんな俳優の姿はルールに縛られながら、 繰り返し目標へと懸命に手を伸ばすスポーツ選手のようです。 だから人は結末が分かっている古典を繰り返し観るのです。 その役を通して人が、魂がどこまで純度を上げられるか目撃する為に。